編集者より
「しおまち書房」として送り出す、3冊目の書籍(電子書籍を除く)をご紹介します。
今回の書籍(リトルプレス)は、「詩集」。
題して「まんなかと うしろと まえ」です。
りんごゆきさんが何年も書き溜めてきた、詩とコトバが書かれた、たくさんの手帳を預かって持ち帰った夜。その手帳の海には無数の「言葉」が泳いでいるように見えました。そしてぼくは、それらがまるで海を泳ぐ小さな魚たちの群れのように見えたのです。
ぼくの頭上に青く広がる、深くそしてとても広い「りんごゆき」さんのコトバの海。まっすぐに広い海を進んでいく魚もいれば、ひたむきな愛をくるくると泳ぎながら表現する魚も、迷いの海で波にもまれている魚もいる。小さな命を守る魚も、仲間を助けることでじぶんも救われている魚もいました。
300匹あまりの魚を見上げながら、ぼくはゆっくりと一匹ずつ選び出し、瓶に詰める。この詩集の編集過程は、まさにそんな雰囲気で、生まれたのです。
どんな「作品」と呼ばれるものもそうであるように、本来はじぶんのために書かれたものがほとんどです。しかし、それを世に出す場合には、「読み手の作品」にならなければならないと思います。
手に取った方、読んだ方にとって「ああ、これは自分の気持ちとおんなじだ」「うまく言葉にできなかったことが書いてある」と思っていただけることが、作品の持つ、あるいは作品をつくる最大の使命だと、ぼくは思います。また、「あなたのブログが自動的に本になります」とか「インタ―ネットでアップロードすると印刷して出版します」という「素通り編集」に背を向けて、「しおまち書房」として、この仕事を手がけているからには、読み手に響くものに「編集者として」意地でもしなければならないという使命もあります。
約1ヵ月ほど、悩みながら「魚たち」と向かい合う日々がありました。これは正直難しい仕事でもありました。特に、詩集となれば、短い言葉だけの直球勝負。ビジュアルでお茶を濁すことはできません。読み手にとって響く言葉を選び、生み手の持ち味を残しながらいかに伝え、そして調整するか。その作業の重さに、悩む日もありました。
結果として62編の詞を選び、2つの章に分け、それぞれの章に、こころの流れや揺れ動きが表現されるように編集していきました。
パッション感が強い言葉と、恋愛を描いたプリミティブな詞が心を揺さぶる、躍動感のある前半の章「まんなかと うしろと まえ」。
そして後半の章は、「生」や「死」、そして「愛情」を描いた詩が癒してくれる「お空の大事なひとよ」。
前の詞が次の詩に影響するように並べた箇所も何か所かあります。
また、上の写真のように、詩集なのにビジュアル的な要素を取り入れた作品も一部あります。
これはぼくが今まで、いくつかの詩集を読んでいて、どうしても途中で飽きてしまうことがあったから。
アクセントとなるデザインを施した「詩」や「言葉」を散りばめてみました。
じつは著者の「りんごゆき」さんは、医療福祉関係のお仕事を長年されていらっしゃいます。
だから、よく読んでいくと、「死」や「病気」に関する詩もいくつか含まれており、これらがとても響いてくるのです。たとえば、一例として2篇を紹介します。
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「お空の大事なひとよ」
お空の大事なひとよ
わたしはあなたたちが
光を灯してくれてるこの世を
大事に生きるよ
命いっぱい愛して
わたしに見せてくれたお礼は
わたしが命をいっぱい愛すことだと
思うからね
こんな気持ちにさせてもらえたのは
死をわたしに見せてくれて
命をあずけてくれたからだと思う
だから
あなたたちの死は
尊い贈り物なんです
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「不自由」
不自由って
自由を想う ヒントだね
不自由も愛しいね
自由の子どもだもの
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その一方で、こんな元気をくれる詩もあります。
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「ついてくる自分」
ついてくる自分と
ついてこない自分
どっちも大事
その日によって
ついてこない自分が
ついてくる自分を
見てる
いろいろね
こんな時こそ
パワーの出しかたを
覚えるね
ついてこない自分
今は…
そこで休憩していいよ
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このように、小さいけれど、心を込めた「詩集」ができあがりました。
アナログの本として、手触りや角度によって光って見える紙を表紙に使うなど
可能な範囲でこだわりました。
結果としてあまり部数がつくれなかったのですが、この魚たちが広い海を渡って、たくさんの方々のこころに響いたり、心の支えになるとしたら、それは著者にとっても、編集者のぼくにとっても最大の喜びになることでしょう。
広島から生まれた、この小さな一冊。どうぞ、よろしくお願いいたします。
編集者 久保浩志(しおまち書房)
読まれた方の感想
読まれた方々の感想を抜粋致します。
「詩集を全部、読み終えた後、一番の感想は、せつなくなりました。ゆきさんの毎日を大切に大切に生きてるとこが、うらやましくなり、わたしもそうやって生きていきたいって思わされたからです」
「買って、続けて5回も繰り返し読みました。ぜんぜん、飽きないし、むしろ、読めば読むほど、味がでる詩集です」
「忙しくて疲れたときに、我に帰れそうだから、職場に常備しときます」
「(「不自由」の詩を見て)これ、読んだら、わたしの手が、上手くうごけんのも、かわいいもんじゃねっておもったよ。がんばらんといけんおもったよ」(90歳の入院中の方より)
「りんごゆきさんの優しい人柄を感じます。毎日バタバタと生活していると、忘れがちな事を感じさせてくれる言葉。違った視点からの言葉のセレクトで癒されてます。どの詩を見ても、人を批判していない。カバンに入れて持ち歩き、つい、開けてみたくなるそんな詩集でした」
※ご感想を募集しております。こちらまでお寄せください。
メディア情報
各種メディアに取り上げていただきました。
讀賣新聞・みんなの介護ニュースで紹介
2014年2月3日の『讀賣新聞』朝刊 地域面・広島にて、「詩集 まんなかと うしろと まえ」を報道いただきました。
のちに讀賣新聞の医療サイト「yomiドクター」でも公開されています。
また、介護ニュースサイト「みんなの介護ニュース」でも報道いただきました。
・
「yomiドクター」高齢者励ます詩集 広島の介護福祉士初出版
・
「みんなの介護ニュース」広島県広島市の介護福祉士が高齢者を励ます詩集を初出版
FMはつかいちに著者りんごゆきさんが出演
2016年2月、広島県廿日市市の地域FM「
FMはつかいち」の番組『水曜日の癒されタイム』に、著者のりんごゆきさんが出演。自作詩の朗読などを行いました。
同番組では、音楽にのせて詩の朗読を行っており、出演日以外の放送日にも「まんなかとうしろとまえ」掲載の詩を紹介いただいています。
写真左上より、番組パーソナリティの宇月彩さん(ライアー奏者)、りんごゆきさん
下の写真、手回しオルゴール奏者の右田悦雄さんと、朗読担当の右田敬之さん